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【書評 新しい市場のつくりかた】普段の生活に気づきを与えてくれる良書。著:三宅秀道


素晴らしい本に出会った。その本は、三宅秀道氏の「新しい市場のつくりかた」という本だ。

この本は、今までにない商品を作ることについて書かれている。新しい商品なんて、毎日いくらでも出てきているじゃないかと思うが、日々市場に出る新しい商品は、従来にある商品を改良した物ばかりで、今までにない新しい市場を作る商品ではないということだ。この新しい市場を作る商品というのがとても大事だというのは、なんとなく頭の片隅のほうで分かってはいたが、この本を読むことで、体系的に整理して理解することができる。そして読んでいて気付いたのは僕だけではないと思うが、この本に書かれていることは、今の日本の企業の問題点そのものなのだ。

今日本の企業が置かれている状況は非常に厳しい。でも厳しくなるべくしてなっているとも言える。何故なら自ら厳しい状況に入ってしまうようなビジネスをしてしまっているからだ。元々日本人はパクるのが得意な人種だ。高度経済成長を支えたのも、欧米の商品をパクッっては、持ち前の勤勉さと手先の器用さで、元の商品を徹底的にパクり、より良い商品を元の商品より安く作ることで成長してきた。追いつけ追い越せで成長する時代は良かった、しかし物が溢れ、技術は数十年前の先祖達では想像もできないほどに進化してしまった現在。既存の商品をパクって改良するだけでは、もうビジネスができなくなってきている。さらに、商品の価格を抑えるには、労働者の賃金の安い国で生産することが一番の近道だ。しかし、貧困国や開発途上国で生産することの弊害もある。それは商品の品質だ。貧困国や開発途上国で生産することは、商品の品質を安定させたり、品質を上げるということに困難を伴うことが多い。しかし、そういった国々で生産することが当たり前になった現在、昔ほど商品の品質を上げることに苦労することも減ってきた。生産技術の進化、通信技術の進化によって、遠く離れた国で物を作るということの弊害もなくなってきた。この流れは止められない。一度流れた川は止まらない。流れた川は、さらにまだ見ぬ国を目指して流れていくだろう。

この事実を認識するしかないニュースが今年はあった。そう液晶のシャープ業績悪化のニュースだ。つい数年前まで世界の亀山モデルと謳い、綺麗な液晶テレビが欲しいなら三重県の亀山市で製造している、国産モデルのシャープの液晶テレビだと日本人は思っていた(しかしすでにこの時から、マニアの間ではシャープの液晶の評価は低かった)。液晶テレビの値段が高値で推移している時は良かった。でもそれはまだ問題が表面化せずに、大変な問題が地下に隠れていただけだった。アナログテレビ放送終了に伴い、テレビを買い換える必要が生じたことによる地デジ旋風を、家電エコポイントが強力にアシストし、電気屋さんには人が溢れかえった。いつもは在庫があって持ち帰ることができるのが当然だった液晶テレビの在庫が無くなり、納期に数週間。さらにはあまりに客が店頭に殺到することで、液晶テレビを買うのに順番待ちが起こった。そんな今では考えられない状況だった。しかし、こんな状況はいつまでも続かないのは、誰もが分かっていた。そして、アナログ放送は終了し、地上波デジタル放送に移行。そして液晶テレビバブルは弾けた。

液晶テレビバブルが弾ける前でも、安くなったなぁと皆が口々に言っていた液晶テレビの今の価格が分かりますか?電気屋さんに行って、値札に付いている価格を見て下さい。きっと目を疑うでしょう。想像以上に価格破壊が起きている。

32インチが約3万円。
40インチが約6万円。
50インチというかなり大型の液晶テレビでも約17万円。

たしか数年前まで、1インチ5,000円と言ってたように記憶しているのだが、現在の32インチテレビで計算してみると、1インチ1,000円を切っている、、、

価格低下が止まらず、困った液晶テレビメーカーは、3Dだ、4倍速で残像が少ないだ、さらには4K2Kの超高精細液晶(4,096×2,160画素)だと、ますます液晶を進化させている。しかしそれは既存の延長線上でしかなく、技術も行き着くところまで行ってしまった今、正直どの液晶テレビでもさほどの違いはない。メーカーの思惑とは逆に、ますます価格低下をする液晶テレビ。その大きなうねりを避けることはできず、独自路線を歩んでいたシャープも、その波に呑まれてしまった。

シャープだけではない。日本の家電大手はほとんど大赤字。先日通期業績の見通しが、大幅な赤字となった。
シャープ -2,900億
パナソニック -7,800億
ソニー -2,200億
シャープばかり話題が先行しているが、ソニーもここ数年赤字続きだし、何よりもパナソニックの赤字額が飛び抜けている。今さらに恐いのは、この通期見通しが結局もっと悪くなるのではないかということだ。何となくだが、今の赤字の見通しでもかなり良いように見積り過ぎているような気がする。決算を終えた後、この数字はいったいどうなるのだろうか、、、

数字ばかり見ていると、まったく希望が持てなくなってくる。ならば実際に市場に出ている商品を見て希望を持とうと思った。しかし見ないほうが良かったかもしれない。現在市場に出ている商品は、今後もまったく業績が良くなる希望が持てない商品ばかりだった。

これはシャープのAQUOS液晶テレビ40型 LC-40H7という商品だが、日本の液晶テレビはどこのメーカーも、このような同じデザイン。さらにテレビを操作するリモコンも、ゴテゴテとボタンばかり付いていて、どれを押したらいいのかよく分からない。何故、どこのメーカーも同じようなデザインで、同じような使いにくいリモコンなのだろうか。国からそういう風に作りなさいと指導でも出ているのだろうか(このおかしな国ならありえそうだが)。

日本メーカーのテレビを見た後に、海外メーカーのテレビを見て自分の目を疑った。映画に出てくるような未来的なテレビがそこにはあった。

これはLGエレクトロニクスのSmart CINEMA 3D TV 42LM6600という42インチテレビだが、画面のフチがほとんど無いデザインで、明らかに日本のテレビより先進的だ。さらにリモコンも、日本のテレビのようにボタンだらけではなく、シンプルで使いやすいように見える(まだ実際に使った事がないので、実際のところはどうか分からない)。

改めて実際に市場に出ている商品を見てみると、何故業績が悪いのかというのが何となくだが分かるような気がした。このままいくと、テレビといったら日本メーカーのテレビを購入するのが当たり前だった時代が終わるのではないだろうか。

このような状況では、大手家電メーカーはますますダメになっていくのは間違いない。特にシャープ、ソニー、パナソニックは根本的に商品を考えていかないと、取り返しのつかない事になるのではないかと思う。

液晶テレビの話題が長くなってしまったが、もう既存の商品をドンドン磨いて争っていては、価格競争に巻き込まれるだけ。今の日本では中国や韓国勢の価格競争に勝てない。三宅氏の著書「新しい市場の作り方」に書かれているようなビジネスをしていかないといけないのだ。

そんな中、日本の大企業のひとつである任天堂の岩田聡社長と、マリオの生みの親宮本茂氏、コピーライター糸井重里氏の3人の対談を見つけた。この3人は日頃から親交があり、特に新商品発売時にはよく対談をしている。糸井氏の鋭い視点からの言葉が、任天堂という会社の物作りの考え方を体系的に整理してくれているようだ。2012年は任天堂の業績も悪かった。今まで赤字のなかった会社が初の赤字で、この業績が良くなるかどうか、正直よく分からない。

でも任天堂という会社は大丈夫なんじゃないかと思う。これは少し個人的な思いも入ってはいるが(昔から任天堂のゲームを楽しみ、任天堂の物作りの考え方が好きだからだ)、巨額の赤字を出している大手家電メーカーと違い、任天堂は新しい市場を作るということを意識している会社だからだ。

昔から娯楽の会社だったが、任天堂はテレビゲームという新しい市場を作った。しかしこれも元はアメリカのアタリ社が出していた商品を、パクリ磨き上げることで、誰でも楽しめる商品を作ることができ、新しい市場を作ることができた。新しい市場で独占的な地位を築いた任天堂だったが、ある商品を発売することで、まったく新しい市場を作り上げることに成功した。

それは、外でゲームをする携帯型ゲーム機のゲームボーイだ。

今では当たり前となったこの商品だが、発売された当時は斬新だった。今のように鮮やかなカラー液晶ではなく、モノクロの液晶。よくこんな画面でゲームをしていたなぁと思うが、テレビの画面でゲームをするのが当たり前だった時代に、技術の進化をうまく取りまとめることで、新しい市場を創ることに成功した。

その任天堂も荒波に呑まれ、非常に厳しい状況になっている。スマートフォンやタブレットという高性能モバイル端末が驚異的に性能を上げてきたことで世界中に普及し、任天堂の独擅場だったゲームという市場を、スマートフォンの機能の一つとして取り込んでしまいそうなのだ。ゲームはゲーム専用機でという時代が終わり、スマートフォンやタブレット機能の数ある機能の一つになってしまうかもしれない。そんな厳しい流れの中でも現在の市場の問題点を探しだし、それをどうやったら解決できるのか、任天堂は黙々と取り組んでいる。その一つが、先日発売になった新しい家庭用テレビゲーム機WiiUだ。

問題点を発見し、それを解決するために、新しい商品を発明する。任天堂という会社は、娯楽というものを通じて、自分達の信じる文化を作ろうとしている会社なのだ。こういった会社はきっとまた復活する。今はまだその時が来ていないだけだ。黙々と取り組んだ答えを、2013年には見ることが出来るだろう。

今回三宅秀道氏の「新しい市場の作り方」を読むことで、改めて物作りというのは、ただ物を作るだけでは無いことが分かった。世の中の問題点を発見し、それをどうやったら解決できるか考えることで、新しい商品ができる。それは新しい文化を作るということと同じで、新しい文化ができると、新しい市場ができるというのが分かった。2013年は「一強皆弱」という時代になると思っている。新しい市場を創ることができた会社だけが生き残る。新しい年を迎える前に、三宅秀道氏の「新しい市場のつくりかた」を、読んでみてほしいと思う。

 

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