携帯料金、「4割下げ余地」 官房長官 (写真=共同) :日本経済新聞

すべてはこの発言から始まった。「携帯電話料金は、今より4割程度下げる余地がある」と、菅義偉官房長官が具体的な発言をしたことから、長く続いている問題に火が付いた。これまでも国と大手携帯電話キャリアとの間で、様々なバトルが繰り広げられてきた。

安倍首相が「携帯料金の値下げ」に言及、でも本当にできるの? - 日経トレンディネット

2015年9月に安倍首相が「家計への負担が大きい」として、携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示。あれから3年になろうとしているが、携帯電話料金は下がるどころか、逆に上がってしまったのが現実だ。そんな状況に業を煮やしたのか、「4割程度下げる余地がある」という発言に至ったのだろう。

国から4割も値段を下げろといわれるビジネスは、いろんな意味で正常ではない。利益が4割も減ったら、普通の会社なら死活問題だ。どうしてこんな状況になってしまったのだろうか。

元々は月6,000円ぐらいだった

iPhoneが日本で広まったのは、iPhone3GSからだ。まだまだガラケーが全盛だった日本に、ソフトバンクが積極的なキャンペーンを繰り広げた。携帯電話といったらdocomoというような状況だったため、docomoからSoftbankに乗り換えるのは困難だった。Softbankの電波状況もよくなかったため、SoftbankのiPhoneに乗り換えるのではなく、今持っている携帯電話に、iPhoneを追加する形を取った方が多かったはずだ。

ガラケーとiPhoneの2台持ちになるといっても、月6,000円ぐらいの出費が上乗せになるだけ。ガジェット好きなら、月6,000円ぐらい大した出費ではない。あのiPhoneを手にすることができるのなら、まったく問題ではなかった。Softbankの電波が悪くても、メインのガラケーがあるし、かえって2台持ちのほうが都合がよい。

これまでのガラケーとは全く違うiPhoneの便利さと使いやすさを知ってしまった人たちは、次からはiPhone一台もちでいいと思い、次第にガラケーのキャリアからの乗り換えていくようになっていった。

docomoからiPhone発売で3社横並びに

当初はSoftbankがiPhoneを独占していたが、auが取り扱うようになり、最終的にはdocomoも取り扱わざるを得なくなった。

ドコモからiPhone発売

長い間実現しなかったことが、2013年9月に終止符が打たれた。頑なにiPhoneの取り扱いをしなかったdocomoが、ついにiPhoneを取り扱ったのだ。

3キャリア全てでiPhoneを契約できるようになり、Softbankとau最大の武器がなくなった。docomoに対するアドバンテージがなくなったSoftbankとauは、契約者を増やすことに躍起になり、乗り換え(MNP)合戦が始まった。

乗り換えをするときだけ、特別な割引が発生するだけではなく、契約時に販売店で現金や金券が貰えるようになった。同じキャリアで契約し続けるメリットはなく、乗り換えなければ損という風潮になった。

販売合戦はさらに過熱した。複数回線を契約することで、キャッシュバックの金額が増額されたのだ。こうなってくると、もはやiPhoneやスマートフォンを購入するというより、どうやって儲けるかという風潮に。SNSが一般化したことで、こういった情報は共有され、どこで契約して得するかという流れになっていった。

そんな状況になっても、多くの一般ユーザーは、ずっとdocomoだったり、ずっとauやSoftbankというユーザーだった。長い間契約している優良顧客のはずなのに、小手先のテクニックで乗り換えるユーザーだけが得をするという状況に。この旨味をしっているユーザーが、乗り換えたほうがお得だよと説明しても、家族がdocomoだから、なんか面倒だからと、ずっと同じキャリアのままだったユーザーも多かった。

乗り換える人だけ得をして、ずっと同じキャリアで契約しているユーザーは得をすることはなかった。

不要な話し放題をつけて料金を値上げ

全てのキャリアでiPhoneが契約できるようになったことで、そのキャリアと契約するメリットみたいなものがなくなった。様々なキャンペーンが行われても、料金は各社横並び。そんな状況の中、docomoが驚きのプランを発表した。

話し放題

カケホーダイという新しい料金プランが始まった。スマートフォンや携帯電話の料金が高くなる要因のひとつが通話料だ。30秒ごとに20円といった料金がかかっていたが、どれだけ通話しても無料というプランだ。これまで同じキャリア同士だったら無料ではあったが、カケホーダイは違った。ドコモからauやSoftbankに通話しても無料。時間の制約もなく、1時間話し続けても無料だった。

一見するとお得に見えるが、これには罠があった。これまで980円だった通話プランの料金が、2,700円になったのだ。携帯電話時代なら嬉しいプランだったが、時代は通信の時代になっていた。電話で通話する人は減り、SNSやLINEなどでメッセージをやり取りする人が大半に。さらに、これらのアプリ上で通話ができるようになっていた。音声通話ではなく、IP電話と呼ばれるこの方式は、どれだけ話しても通話料はかからない。アプリ上で音声というデータをやり取りしているため、パケット扱いなのだ。もはやキャリアの音声通話をするユーザーは少なくなっていた中、無理やり話し放題を契約させられるようになってしまった。

2700-980=1720円

1720円も料金を値上げするのに成功。これまで6000円台だった料金は、いっきに8000円以上になってしまった。要らない話し放題を付けられて、本当に欲しいパケットは追加で1000円が必要。勝手に料金が高くなった上に、スマホを使えば使うほどパケットは足りなくなる。毎月末になると通信速度が遅くなり、あまりの遅さに耐えられないユーザーは追加で1000円を支払うことに。気が付いたら、以前より大幅に料金が高くなっていたユーザーも多くなっていた。

そんな状況になったことで、ユーザーからは不満の声が高まった。その結果生まれたのがカケホーダイライトというプラン。2700円という通話定額料金が、1700円に値下がりした。料金が1000円下がったのは朗報だったが、その絶妙な仕組みには言葉を失わざるを得なかった。5分までは話し放題だが、5分を越すと30秒につき20円料金が加算される絶妙な設定。うっかり長く電話してしまうと、値段が下がった分以上の料金が加算されてしまうのだ。通話というものは、リアルタイムに相手が向こうにいて、電話を切りたくても切れない状況がある。そろそろ電話を切らないと料金が加算されてしまうと分かっていても、切ることができないのだ。こちらとしては切りたかったのに、電話を切ることができなかったせいで、料金が上乗せされてしまう。

ただでさえ不満があるスマートフォンの料金に、ますます不信感だけが募るようになっていった。

シンプルプランや少量のパケット定額が追加されたが、、、

不要な話し放題をつけられた上、うっかり話しすぎてしまうと、料金が加算される。ユーザーが望む方向とは逆に大手キャリアは邁進していった。高まる不満や国からの苦言を受けて、通話が980円の基本プランや低容量のパケットプランが追加された。

一見すると値段が下がったように見えるプランだったが、ここにも落とし穴があった。安いプランにすると、端末の値引きが減額されたり無くなってしまうのだ。月々サポート、月々割、毎月割と呼ばれる端末の値引きこそが、スマートフォンの料金を左右する。この値引きを無くすことで、安いプランを選択しても、たいして料金が変わらないようになっていた。

形だけの低価格プランを用意し、結局月額料金は安くならないという仕組みになっていた。格安SIMカードと呼ばれるMVNOが増えることで、大手キャリアの割高感と、不信感ばかりが募っていった。

キャッシュバックが廃止されて実質値上げに

「実質0円」廃止から1カ月、携帯電話大手3社の新たな施策は?

通話定額や、よく分からない低価格プランが追加されても、乗り換えという方法をとれば、スマホの料金を下げることは可能な状況だった。通常8,000円程度の料金が、乗り換えさえすれば、6,000円以下にするのは難しくはなかった。この事実を知っていたユーザーは、2年おきにキャリアを変えれば、ずっと安いまま維持できると思っていたのだが、、、

キャッシュバック廃止

とんでもないことを国が言い出したのだ。キャッシュバックや実質0円を止めて、正常な商売をしろというのだ。乗り換えをする人だけが得をするのではなく、全てのユーザーが公平な料金になるよう指導が入った。

国からの通達は絶大で、店頭に踊っていた0円やキャッシュバック10万といったポップは消えていった。店頭のポップには表記されていなくても、陰ではキャッシュバックや0円といった販売は続いていたが、そういったお店を見つけたら通報する窓口まで用意され、キャッシュバックや0円端末は徐々に姿を消していった。

その結果どうなったかというと、すべてのユーザーが8,000円以上の料金になってしまい、実質値上げになってしまった。この状況に日に油を注いだのが、iPhone Xという新機種だった。これまでほぼ10万以内だったiPhoneが、いっきに12万以上に値上りしてしまった。端末代が高くなってしまったことで、毎月の料金はいっきに1万に跳ね上がってしまった。

値下げはされず、小手先騙しのプラン追加ばかり

キャッシュバックや0円を無くせば、その原資で料金が下がるという目論見は外れ、料金は据え置かれてしまった。値段を下げれば利益が減ってしまう。キャッシュバックや0円販売がなくなって利益が増えたといっても、自ら利益を削るようなことはしないのが当然だ。そんなことをしたら、株主から厳しく追及されるだろう。

ユーザーから聞こえてくる不満の声には、小手先騙しのプランを追加することで、値段を下げる努力を形式上は見せていた。しかし、小手先騙しの料金はすでに見抜かれており、実際には何も変わらないという状況だった。

乗り換えれば安くなっていたのに、その方法は防がれてしまった。安くするには格安SIMと呼ばれるMVNOに乗り換えるしか方法がなくなってしまい、状況はどんどん悪いほうにいってしまった。Softbankとauは、ワイモバイルとUQモバイルというサブブランドを作り、そこに乗り換えることで、他社のサブブランドに逃げられないという裏技を作り、契約者数が減るのを防いでいた。

Softbankからワイモバイルだと(auからUQモバイルも同じ)、同じ会社から同じ会社になって料金だけ下がってしまうため、乗り換え時の優遇はせず、他キャリアからの乗り換えだけ優遇していた(auかdocomoからワイモバイルの場合は優遇)。

手を変え品を変えているだけで、根本的には何も解決していなかった。資金力のあるキャリアやMVNOしか生き残れない状況になり、ますます悪いほうに進んでしまった。

4割下がるという根拠は

そんな2018年夏、菅官房長官が「携帯電話料金は、今より4割程度下げる余地がある」という発言をしたことで、さらに混迷を極める状況になった携帯電話業界。いったい4割下がるという根拠は何なのだろうか。

キャッシュバックしていても利益が出ていた

キャッシュバックや0円といった施策をしているときも、大手キャリアは十分な利益を出していた。通常8,000円ぐらいだった月額料金は、違うキャリアにMNPをすることで大幅に料金を安くすることができた。

8,000円×0.6=4,800円

今の一般的な月額料金から4割引きすると、5,000円ぐらいになる。キャッシュバック全盛だった時代なら、特別安いといった料金ではない。すべてのユーザーが乗り換えてはいないため、単純に計算はできないが、4割値段を下げても利益は出るということだろう。

サブブランドの価格で計算

Softbankとauは、サブブランドでワイモバイルとUQモバイルを持っている。取り扱い端末は違うが、回線は同じ回線のため、値段の安いSoftbank、auといってもいいだろう。

ワイモバイルの真ん中のプラン、スマホプランMでiPhone SEを契約したときの価格を調べてみよう。

端末代を含めて3,758円

となっているが、これは最初の12か月の価格で、13か月目からは4,758円になる。13か月目からの料金を正規料金として比較すると、大手キャリアの一般的な価格8,000円から4割引きすると、4,800円ぐらいという結果なのは、先ほど述べた通り。

サブブランドが5,000円でやれているのだから、親ブランドの料金を4割下げても大丈夫だということだろう。

利益をユーザー数で割ると

最後に、各キャリの年間の営業利益を見てみよう

  • docomo 9733億円
  • au 9622億円
  • Softbank 1兆3003億円

どのキャリアも約1兆円の利益を稼いでいる。次に各キャリアの契約数を見てみよう。

  • docomo 76,746,000
  • au 52,890,600
  • Softbank   39,911,400

docomoがトップで、7千6百万契約だ。

現在の月額料金から4割程度値引きすると、約3,000円の値引きになると先ほど計算した。この数字と契約者数をかけてみよう。

3,000×76,746,000=230,238,000,000円

契約者すべてから4割値引くと、利益が2,300億は吹き飛ぶことになる。

9733-2300=7433億円

4割り値引きをしても、利益は7,000億以上残る計算になる。

4割値段を下げても大丈夫だろうと思われても、これでは仕方がないかもしれない。

楽天の参入でどうなるか

ここまで変わらずいたちごっこが続いていた状況を見ると、4割も強制的に値段が下がることはないだろう。早速Softbankが新しい料金プランを発表したが、端末代が分離されただけで、特別安くなっている訳ではない。

競争が起きていない状況の中、唯一の希望がある。あの楽天が第四のキャリアとして参入することだ。2019年10月からサービス開始予定だが、いまさら参入するからには、他社と横並びの料金では勝負にならないだろう。電波のエリアや通信速度で、しばらく劣るのは明らかな状況のため、料金で差別化を図る以外にない。

楽天が月額いくらでサービスを提供するのか。MVNOも普及している中、中途半端な料金では勝負にならないので、ワイモバイルやUQ モバイル並みの料金にしてくるのではないだろうか。ワイモバイルの真ん中のプランが5,000円程度。端末込みで5,000円程度の価格を打ち出してくれれば、3キャリア横並びの料金に風穴が吹くかもしれない。

新しいiPhoneの発売も迫っているが、これから携帯電話業界がどうなっていくのか。世間の目は厳しくなっていくだろう。来年の今頃、本当に4割も値段が下がっているのか。相変わらずの状況なのか。

これから1年大手キャリアがどういった動きに出るのか。目が離せない日が続きそうだ。

 

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