久しぶりに馴染みのお店の暖簾をくぐる。僕の目に入ったのは、カウンターにいる冴えない男3人。そこに僕が加わった。ジャニーズアイドルとは真逆と言っていい、日本で一番イケてない男性グループが結成された。

それぞれ変なプライドがあるのだろう。お前なんかと話しに来たんじゃない。真横にいる僕とは話さず、カウンター越しにいる女性店員と笑顔で話す。

ちょっと濃い目のメークをするのが、夜の商売の基本。作られた顔が作り笑顔で客と話す。目の前にいる男は、心から嬉しそうだ。

女を口説くなら隣のポジションをキープしろ。昔読んだ男性ファッション誌、メンズノンノやポパイが僕に教えてくれた。対面する僕らの前に憚る大きな壁。この壁があることで、適度な距離感を保つことができる。

キモいおじさんは嫌い

テーブル席にいる若い男性2人組と話すときの笑顔と、カウンターに立つ冴えないおじさんと話すときの笑顔の違いで分かる。

通っても通っても報われないのに、お互いの名前も知らない4人は会う。週2回ぐらいしかシフトに入らない彼女より、週3か4は顔を出す僕らのほうが、合う確率は高い。

僕らは何を満たすために此処にくるのだろうか。一度プライドを捨てて話せば、分かり合えるかもしれない。

前線に陣取る4人組の中に、さらに年配の男が入ってきた。男でも惹かれてしまうような笑顔と、ビシっとしたスーツの着こなし。どこか影のある僕らとは、違う世界にいる男だと思わされる。

彼の店内での振る舞いを見ていると、誰かに好かれるのに必要なことを教えてくれる。

見た目がよい、清潔感があるといったことより、何気ない振る舞いや仕草に、女を抱けるか抱けないかの道が別れる。

一人の男が加わって、カウンターには5人の男が陣取る。後ろにいる他の客は、僕らの背中に「中年童貞」という四字熟語の紙を貼っているのかもしれない。

きっと1人の男を覗いて、4人の男に貼るだろう。

僕の背中は自分が思うより正直かい

二十世紀の大ヒットソングが、そう歌っていた。

そんなことに気づかれてしまうのなら、正直じゃなければいいのに。男の背中は残酷なまでに、その人の生き様を物語る。

行き場のない男たちも、暖簾を逆からくぐれば現実の世界に戻る。話し相手はいなくなり、中年童貞という称号を背負い、笑顔であふれる街を切り裂きながら歩いていく。そこを歩くだけで雰囲気をブチ壊してしまう。きらびやかな街には、僕らのような人間が堂々と歩いていはいけない。

お一人様お断り

お一人様では街を歩けない日がやってくるのかもしれない。でも心配は無用だ。ブレードランナー2049に登場するフォログラムの女性、ジョイのようなものが登場すれば、お一人様を偽ることができる。




すでに僕らは、ブレードランナーのジョイに近いものを体験している。現実世界とは別の世界を常に持ち、目の前にいない人たちと心信(こうしん)する。

技術は進化し続ける。今から32年後の2049年には、お一人様というものは存在していないだろう。スマートフォンを持っている人が溢れていることを、10年前に想像できなかったように。32年後の世界なんて、僕らの想像を遥かに越える世界になっている。

AIが進化し、作られた彼女が感情を持つ。

私は1と0の集合、あなたはGCAT。あなたは本物よ

どんどん学習する彼女がそう言うだろう。GCATの僕は学習するところがないので、彼女に気の利いたセリフの一つも言えやしない。

技術が進化し、人間の寂しさや不条理を解決してくれるようになっても、人間の心は変わらない。学習する機会がなければ、人は進化しない。経験がなければ、気の利いたセリフだって言えやしない。例えそれがアンドロイドにだとしても。

人と区別の付かないアンドロイド(人造人間)と生きるのか。報われることのない気持ちを抱えたまま、人間と付き合うのか。アンドロイドじゃないパートナーができても、不安や寂しさはなくならない。自分の手でバージョンアップできるジョイのように、他人を制御することはできないから。

僕は特別だろうか

自分の年齢がいくつかなんて、どうでもいいような年になってきても、まだ自分を信じている。アンドロイドじゃない僕の心の声がそういっている。

僕は特別だろうか。自分だけのイヤホンで心の声を聞き取ろう。冴えない4人の男たちの未来は何処へ行く。

それぞれの心が歩き始めた。

 

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